ある日突然、片目だけが一時的に見えなくなったり、手足がしびれたり動かなくなったり、言葉が出にくくなったりするのが、脳血管の病気の怖いところです。それがいつまでも改善せずに継続したら「脳梗塞」の可能性が高く、しばらくしてもとに戻ったらその怖い可能性は低くなります。「一過性脳虚血発作」と言い、特に目に起きた場合は「一過性黒内障」とよびます。数分で戻ったからといって安心して放置すると、次に起きたときは脳梗塞になっているかもしれません。
今回は「一過性黒内障(いっかせいこくないしょう)」と「一過性脳虚血発作(TIA)」という症状について、最新の医学的知見を交えて、医療の知識がない方にもわかりやすくご説明します。
◆ 一過性黒内障・TIAとは?
「一過性黒内障(Amaurosis fugax)」とは、目に行く血管が一時的に詰まってしまうことで「一時的に片目が真っ暗になる症状」のことを指します。
「一過性脳虚血発作(TIA:Transient Ischemic Attack)」は、脳の血管が一時的に詰まってしまい、脳の一部が一時的に血流不足になることにより、片麻痺やしびれ、言語障害、ふらつきなどの症状が短時間(通常24時間以内)で自然に回復する状態です。
どちらも症状がすぐに回復するため軽視されがちですが、脳や血管の異常が原因であることが多く、放置すれば脳梗塞などに進行する危険性があります。
◆ どんな症状で起こる?
一過性黒内障やTIAの主な症状は以下の通りです:
- 突然片方の目が真っ暗になる(黒内障)
- 視野が欠ける、二重に見える
- 片側の手足がしびれる、力が入らない
- 言葉が出てこない、ろれつが回らない
- めまい、ふらつき、バランスがとれない
- 意識を失う
- 数秒から数分、長くても24時間以内に自然に回復することが多い
このような症状がある場合、脳梗塞の前兆として緊急対応が必要です。
◆ 原因は何か?
- 頚動脈の動脈硬化(頚動脈狭窄)
- 心臓からの血栓(特に心房細動など)
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病
一過性黒内障は頚動脈から眼動脈への塞栓によることが多く、TIAは脳の一部に血栓が飛ぶことで起こります。
◆ 一般的に検査はどのようなものが必要か?
- 頭部MRI・MRA:脳と血管の状態を確認
- 頚動脈エコー:血管の詰まりやプラークの有無
- 心電図・心エコー:心房細動や血栓の有無
- 血液検査:脂質、血糖、凝固系、炎症反応など
◆ 治療はどうするの?
- 抗血小板薬:アスピリンまたはクロピドグレルを用いた長期内服
- 急性期は3週間までは抗血小板剤2剤内服することもあり、21日〜90日までは必ず上記抗血小板剤を内服する。
- 生活習慣の改善(食事・運動の見直し、禁煙の徹底)
- 重度の頚動脈狭窄では血管内治療や手術
◆ 抗血小板薬の継続期間と選択
TIAや一過性黒内障は、特に発症後90日間が最も脳梗塞のリスクが高いとされ、この期間中は積極的な治療が必要です。 ただし、この高リスクの90日間を過ぎても、頚動脈狭窄や脳血管狭窄がある場合や生活習慣の改善が認められない場合は発症後1年で約5%、5年以内で10%程度が脳梗塞に至るとの報告もあります。その場合は、抗血小板剤の継続を必要とし、さらにリスク因子を取り除くことをめざしていきます。
ガイドラインでは、リスク因子が多い場合は発症早期の21〜90日間はアスピリン+クロピドグレルの併用、その後は単剤を生涯継続することが推奨されています。 クロピドグレルの方がアスピリンより再発予防効果や出血リスクの面でやや優れるという報告もありますが、患者さんごとのリスクに応じて選択されます。
◆ 放置するとどうなるの?
これらの一過性症状は、実際には「脳卒中の予告信号」です。特にTIAを放置した場合、初回発症から数日以内に脳梗塞を発症する確率が非常に高いため、できるだけ早く医療機関を受診し、再発予防策を講じる必要があります。
◆ 生活習慣で気をつけること
- 禁煙
- 減塩・野菜・魚中心のバランスのよい食事
- 定期的な有酸素運動(週3回以上)
- ストレスを避けて十分な睡眠をとること
◆ 健康診断の重要性
一過性黒内障やTIAの背景には、動脈硬化や心房細動などのリスク因子があるため、定期健診で血圧・血糖・脂質・心電図をチェックすることが重要です。
◆ まとめ
ポイント | 内容 |
---|---|
一過性黒内障/TIAとは | 目や手足に起こる一時的な血流障害による症状 |
放置のリスク | 脳梗塞の前兆。90日以内に高リスク |
原因 | 頚動脈狭窄、心原性塞栓、動脈硬化性疾患 |
検査 | MRI、MRA、頚動脈エコー、心電図、採血 |
治療 | 抗血小板薬(長期)、生活習慣の是正 |
薬の選択 | クロピドグレルやアスピリンを個別に判断 |
内服期間 | 急性期はDAPT、以降は単剤を生涯継続が基本 |
◆ 参考文献(PubMedより)
- Johnston SC, et al. “Short-term prognosis after emergency department diagnosis of TIA.” JAMA. 2000;284(22):2901-6. PMID: 11147988
- Biousse V, et al. “Amaurosis fugax: a review of 99 cases.” Stroke. 1997;28(5):993-9. PMID: 9158617
- Amarenco P, et al. “Atherosclerotic disease of the aortic arch and the risk of ischemic stroke.” N Engl J Med. 1994;331(22):1474-9. PMID: 7969272
- Kernan WN, et al. “Guidelines for the prevention of stroke in patients with stroke and transient ischemic attack.” Stroke. 2014;45(7):2160-2236. PMID: 24846889
- CAPRIE Steering Committee. “A randomized, blinded trial of clopidogrel versus aspirin in patients at risk of ischemic events.” Lancet. 1996;348(9038):1329-39. PMID: 8918275
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