座りすぎは「頭痛」と「ロコモ」の共通リスクだった ──NEATの低下が身体に起こす悪循環とは?

クリニックで診療をしていると、「運動するのが苦手で……」「仕事で座っている時間が長くて……」とおっしゃる患者様に毎日のように出会います。ということ現代社会では、デスクワークやオンライン作業の増加、移動手段の便利さなどによって、「“座りっぱなし”が当たり前になってしまう生活」が広く浸透しています。

しかしこの「長時間座位(座りすぎ)」は、単に太りやすくなる、腰が痛くなるといった問題だけでは済みません。「片頭痛のリスクを確実に高める」ことが大規模研究で示されており、同時に「運動器の衰え(ロコモティブシンドローム:ロコモ)を加速させる」大きな要因でもあります。

何を隠そう私自身もその一人であり、仕事柄1日8時間以上座りっぱなしで、最近では腰も痛いし、階段を上るのも一苦労という恥ずかしい状態なんです。

この記事では、自分自身への啓蒙もあわせて、座りすぎによるNEATの低下が健康に及ぼす影響を、わかりやすく深掘りしながら、日常生活でできる改善策をご紹介します。
運動が苦手な方こそ、今日からできることがたくさんあります。

NEATと座位行動:なぜ“座りすぎ”が片頭痛を悪化させるのか?

NEATとは?

NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis)とは、運動と呼ばれない日常の動作で消費するエネルギーのことです。

* 掃除
* 料理
* 歩いて移動
* 立ってテレビを見る
* 買い物
* 姿勢を変える細かな動作

こうした何気ない動きが実は大きなエネルギー消費源であり、健康維持の土台そのものです。

ところが、「座位」はNEATがほぼゼロに近い状態。座り続ける時間が長くなるほど、NEATは著しく低下します。

座位時間が片頭痛のリスクを“16%”高める

最新の大規模研究では、健康的なライフスタイル(睡眠、食事、BMI、喫煙、身体活動、飲酒、座位時間)の質が低いほど片頭痛の新規発症が増え、特に「座りすぎ」が明確なリスクであることが示されました。

以下がこの研究の主な結果です

* 座位時間が長いと片頭痛発症のハザード比が 1.16倍 に増加
* 座位行動を減らせば、全片頭痛の約 6.57% が予防可能
* 理想的な座位時間は 1日4時間未満
* TV視聴時間が長いほど、特に前兆のない片頭痛(MO)に因果的に関連(メンデルランダム化研究)

つまり、座りすぎは単に悪い習慣ではなく、明らかに片頭痛を誘発・悪化させる要因なのです。

座位行動が頭痛を引き起こす“3つのメカニズム”
① 首肩まわりの筋緊張

座位姿勢は首や肩・胸郭に負担をかけやすく、筋緊張が増大。
血流が悪化し、三叉神経系を刺激し、片頭痛や緊張型頭痛を誘発します。

② 身体活動不足による代謝異常

* 身体活動が少ないほど片頭痛リスク増(HR 1.13)
* BMI 30以上では片頭痛リスクが13%増(HR 1.13)

肥満・炎症・自律神経乱れが、片頭痛の発生機序と密接に関連します。

③ 全身の代謝“OFF状態”

座り続ける→NEATゼロ→血糖調節・血流・ホルモン調整が悪化
この“低代謝状態”が神経系にストレスを与えやすくします。

ロコモティブシンドローム:座りすぎが生む運動器の衰え

ロコモとは?

ロコモティブシンドローム(ロコモ)は、骨・筋肉・関節などの**運動器の機能低下**によって移動能力が落ちてしまう状態のこと。

ロコモが進むと…

* 歩行 speed が落ちる
* つまずきやすくなる
* 腰痛・膝痛が慢性化
* 骨折しやすくなる
* 要介護状態のリスク上昇

高齢者だけでなく、働き盛りの40代50代でも急増しています。

座りすぎ → サルコペニア → ロコモの悪循環

座位時間が長い生活は、次のような悪循環を引き起こします。

① 活動度が低下

② エネルギー消費低下

③ 筋肉量の減少(サルコペニア)

④ 歩行速度低下・バランス悪化

⑤ 転倒リスク↑・関節痛↑

⑥ さらに動かなくなる

⑦ ロコモ・フレイルが進行

筋肉は「使わなければ確実に落ちる」臓器です。座りすぎは、筋肉に“休みすぎ”を強制してしまいます。

運動器疾患も悪化させる

以下のような疾患は座りすぎで症状悪化しやすくなります。

・骨粗鬆症

レジスタンス運動・荷重運動が骨密度を維持するために必須。
動かない生活は骨量低下を加速させます。

 ・慢性腰痛

“安静にしすぎる”と痛みは改善しないことが明らかです。
ウォーキング・ストレッチ・体幹運動が推奨されています。

・変形性膝関節症

筋力低下・肥満は膝関節の負担増につながり、膝痛の悪循環を作ります。

座りすぎを減らすための具体策

運動が苦手でもできる、NEATを増やす工夫をご紹介します。

「運動」より「座らない時間」を増やす
◆ 原則:**30~60分に一度は立ち上がる

* 1時間に1回
→ 立つだけでOK(10〜20秒でも効果)
* 立って背伸びをする
* その場で3歩歩く
* トイレや水分補給で小さく動く

椅子に座り続ける時間を“分断”することがポイントです。

立ったままでできる習慣を増やす

* 立ってテレビやスマホを見る
* 電車であえて立つ
* 電話は歩きながら
* 料理・洗濯・掃除を細切れで行う
* エレベーターより階段
* 机を「立ち作業モード」にする(簡易スタンディングデスクも可)

これだけでNEATは自然に上がり、代謝が活性化します。

ロコモ予防の“ロコトレ”

自宅で今すぐ始められる、超シンプル運動です。

◆ ① 片脚立ち

* 机や壁につかまり安全確保
* 左右 **3分ずつ×1日3回**

→ 下肢筋力・体幹バランスが劇的に改善

◆ ② スクワット

* 膝はつま先と同じ向き
* お尻を後ろへ引く
* **5〜6回×1日3回**

→ 太もも・お尻の筋力、股関節安定性を強化

片頭痛管理に重要なその他の生活改善
◆ 睡眠の質

不良な睡眠パターンは片頭痛リスクを 62%増大(HR 1.62)
最適な睡眠時間:7〜8時間

◆ 中強度の運動

運動は片頭痛発作の頻度を減らすことがメタ解析で示されています。
ただし急性期には無理せず休むことが大切。

◆ 栄養管理

* タンパク質
* カルシウム
* ビタミンD
* ビタミンK

骨・筋肉の維持に必須。

■ 結論:

座り続けることこそ、頭痛とロコモの“共通の敵”

激しい運動が必要なわけではありません。
座り続ける時間を減らす、それだけで片頭痛リスクは確実に下がり、ロコモの予防にもつながります。

* 1時間に1度、立つ
* 自宅でロコトレをする
* 立ってできる作業は立って行う
* 睡眠を整える
* NEATを増やす意識をもつ

これらの「小さな積み重ね」が、将来の頭痛や要介護状態を遠ざけ、毎日の生活の質を大きく引き上げます。

■ 使用文献(出典)

1. Wang X, et al. *Associations of healthy lifestyle with migraine: prospective cohort study.* 【HR, PAF% データ】
2. Larsson SC, et al. *Sedentary behavior and migraine: Mendelian randomization analysis.* 【TV視聴とMOの因果関連】
3. 日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム診断基準・ロコトレガイド
4. WHO Physical Activity Guidelines
5. Tokuda Y, et al. *Physical inactivity and metabolic dysfunction.*
6. 片頭痛と運動・生活習慣に関する系統的レビュー各種(メタ解析含む)

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