前回の記事で、緊急治療が必要になる可能性の高い二次性頭痛の判断のしかたについて書きました。これまで経験してきた頭痛と比べてポイントを慎重にみることによって、脳出血やクモ膜下出血、脳腫瘍の可能性が少しでもあるならば、専門病院を受診するようにという内容でした。
ただ、いざとなってすごく頭が痛くなってしまうと、自分の頭痛は今までどうだったか、それに比べて今はどうかなんて判断するのは難しいと思います。頭痛でイライラしているのに、冷静になることは当然ですけど無理でしょう。
ですので、頭痛が生じて、いつもと違うと直感的に感じたならば、すぐに専門病院もしくは専門医のいるクリニックを受診することが、適切な診断と治療に至る一番の早道だと考えます。一見症状が軽く見えても、実は危険な頭痛だったなんてことも稀ですがあります。そのことを知っている医師ならば、頭痛で悩んでいる患者さんの診療を決して断ることはないと思います。
さて、病院やクリニックではどのようにして二次性頭痛かどうかを鑑別するのでしょうか?
私たち脳神経外科医は、おおまかに問診、神経診察、画像検査の順に患者さんを診察していきます。以下にこれらの項目について、一般外来の話になりますが、簡単に書いてみたいと思います。
問診
患者さんにいろいろと病状について質問をしていき、その答えをカルテに記載していきます。診断につながるヒントを得ようと、質問に対する返答内容を一つ一つ吟味していきますが、私たちは同時に診察中の患者さんの表情、目の動きや手足の動き、ろれつのまわり具合を確認しています。さらには診察室に入ってくるときから、歩き方、荷物の置き方なども診て、少しでもおかしいと感じられれば、次の神経診察で確かめていきます。
神経診察
患者さんが「手の力が抜けた感じがする」と言えば、麻痺があるかどうかを確認します。「物が二重にみえる」という訴えがあれば、目の動き(眼球運動)が正常かどうかを確認していきます。このように脳の機能が正常に働いているかどうかを診察するのが、神経診察です。
画像検査
問診と神経診察を行って、ある程度患者さんの病状を把握したところで、実際に脳や脳の血管に異常がないかどうかを確認するために、画像検査をおこないます。CTやMRIといった検査をおこない、その後画像を慎重に確認しながら異常な部分がないかをみていきます。
私の場合は自分で画像を確認(読影といいます)しますが、大きな病院では放射線科の医師が読影医として常駐しています。また最先端技術を導入している病院では読影をAIがおこなっているところもあるようです。
万一、画像検査で異常が見つかっても、今度はその異常所見が患者さんの症状を起こす原因となっているかどうかを判断します。さらには、その異常な変化がいつ頃起きたものなのか、治療が必要なものなのか、また治療をしなかった場合はどのようになるのかということを推測していきます。自分の経験に加えて、本や論文に書かれていた知識を総動員して短時間で判断していかなければいけません。急いで読影しても心配性な私は、診療が終わった後でもう一度見返すこともしばしばあります。さらに、あまり経験のない脳の変化があった場合には、画像を大学病院の専門の先生に相談することもあります。私のように年をとると、相談しやすい優秀な後輩がいることはすごくメリットです。
さて、このようにして患者さんの頭痛が「一次性頭痛」なのか「二次性頭痛」なのかを判断していきます。きちんと診断してその先の方向性をしっかり指し示すことは、患者さんにとってはすごく大事なことだと思います。ですので、自分の外来診療では、常に一定の緊張感を感じながらおこなっており、1日の診療が終了すると肉体的な疲れよりは精神的な疲労が半端ないこともしばしばあります。