片頭痛とは?
症状から予防まで医師が解説する完全ガイド

この記事について
片頭痛は日本で約1,000万人が患う身近な疾患です。この記事では、最新の医学的知見をもとに、片頭痛の疫学、症状、原因、日常生活における対処法について、医療従事者以外の方にもわかりやすく解説します。また具体的な治療法については、別のブログにて説明いたします。
① 片頭痛の疫学:どれくらいの人が悩んでいるの?
日本における片頭痛の現状
片頭痛は決して珍しい病気ではありません。日本の疫学調査により、以下のような実態が明らかになっています。
項目 | 数値・割合 |
---|---|
全体の有病率 | 8.4%(約1,000万人) |
男性の有病率 | 3.6% |
女性の有病率 | 12.9%(男性の約4.4倍) |
最も多い年齢層 | 20〜40代の女性 |
前兆のない片頭痛 | 5.8% |
前兆のある片頭痛 | 2.6% |
なぜ女性に多いのか?
片頭痛が女性に多い理由として、以下が考えられています:
- 女性ホルモン(エストロゲン)の変動
- 月経周期に伴うホルモンレベルの変化
- 妊娠、出産、更年期でのホルモン変化
- 経口避妊薬の使用
特に注目すべきは、子どもも片頭痛になることが多いのですが、10歳以下の子どもでは男女差がほとんどありません。その後女性が初潮を迎える12歳前後から女性の割合が急激に高くなることです。これは女性ホルモンの影響が大きいことを示しています。
② 片頭痛の具体的な症状
主要な症状
随伴症状
痛みの特徴をより詳しく
拍動性の痛み:心臓の鼓動に合わせて「ズキンズキン」「ドクドク」と脈打つような痛みが特徴です。このように心臓の鼓動に合わせたリズムで感じることが多いのですが、しめつけられるような感覚を感じる人も多いとされています。
痛みの場所:こめかみ、額、目の奥、後頭部などに痛みを感じます。片頭痛(偏頭痛)という書き方から、必ず片方に頭痛があると考えがちですが、両側同時に痛くなる人も4割程度います。また多くの場合、頭の片側から始まりますが、両側に広がることもありますし、毎回同じ側が痛くなるとは限りません。頭の後ろ側に痛みが出る場合は、首や肩こりの延長と勘違いしやすい場合もあります。
日常生活への影響:痛みのため仕事や学校を休む、家事ができない、階段の昇降がつらいなど、日常生活に大きな支障をきたします。また仕事に行ったけど、頭痛のために仕事に集中できない、仕事がはかどらないなどプレゼンティイズム(出社するも何もできないでいる)の原因になることが多いとされています。
頭痛の持続時間:薬で治療しなかった場合でも、3日以内には頭痛が落ち着きます。大人の場合は4時間以上頭痛が続くとされていますが、子どもは2時間程度と短いことも多くあります。ダラダラ1週間近く痛みが続く場合や、30分程度と短時間で落ち着いてしまう頭痛は、緊張型頭痛と診断されることが多いです。
片頭痛と他の頭痛との違い
項目 | 片頭痛 | 緊張型頭痛 |
---|---|---|
痛みの性質 | ズキンズキン(拍動性) | 締め付けられるような |
痛みの場所 | 片側または両側 | 頭全体 |
痛みの強さ | 中等度〜重度 | 軽度〜中等度 |
随伴症状 | 吐き気、光・音過敏 | なし(またはどれか一つで軽度) |
日常活動 | 困難 | 可能 |
日常生活や仕事、学業に支障をきたす頭痛はほぼ片頭痛で、緊張型頭痛は比較的軽度であることが多いとされています。ただ緊張型頭痛の中でも、頻度が1か月に15日以上ある場合は「慢性緊張型頭痛」と診断され、片頭痛と同様に日常生活にかなり支障をきたします。片頭痛はもちろん、緊張型頭痛でも頻度が多い人の場合は、早めに医療機関を受診して治療を開始することが大切です。
③ 片頭痛の前兆・予兆
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片頭痛には、頭痛が始まる前に現れる「予兆」と「前兆」があります。これらを理解することで、早期の対策が可能になります。
予兆(前駆症状)
頭痛の数時間〜2日前に現れる症状
前兆(オーラ)
頭痛の直前に現れる神経症状で、5分から60分程度持続します。その後、60分以内に頭痛が生じた場合は片頭痛の前兆と診断されます。
視覚前兆の詳細
片頭痛の前兆で最も多いのが視覚症状(約90%)です。具体的には:
- 閃輝暗点:視野の中心付近にキラキラとした光る点や線が現れ、徐々に拡大していく
- 暗点:視野の一部が暗くなったり、見えなくなったりする
- ジグザグパターン:城壁のようなギザギザした光の輪が見える
- 色彩異常:色が異常に鮮やかに見えたり、変色して見えたりする
これらの症状は通常5分~60分程度続き、その後片頭痛が始まります。
注意が必要な前兆症状
以下の症状がある場合は、他の脳疾患の可能性もあるため、速やかに医療機関を受診してください:
- 突然始まった激しい頭痛
- 発熱を伴う頭痛
- 手足の完全な麻痺
- 意識障害
- けいれん
④ 片頭痛の原因
片頭痛の正確なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、現在最も有力とされているのが「三叉神経血管説」です。
神経血管説による片頭痛のメカニズム
トリガー(誘因)の発生
ストレス、食事、睡眠不足、光や音、においなどの誘因により脳内の神経が刺激される
三叉神経血管系の活性化
脳の血管周囲にある三叉神経が活性化され、炎症物質(CGRP/カルシトニン遺伝子関連ペプチドなど)が放出される
血管の拡張と炎症
炎症物質により脳血管が拡張し、血管周囲に炎症が起こる
痛みの発生
拡張した血管が周囲の神経を刺激し、拍動性の頭痛が生じる
遺伝的要因
片頭痛には遺伝的な傾向があります:
- 親が片頭痛の場合、子どもの発症率は30~70%
- 複数の遺伝子が関与していると考えられている
- 家族性片麻痺性片頭痛は特定の遺伝子変異が原因
家族性片麻痺性片頭痛は、遺伝する片頭痛であり、頭痛とともに手足の麻痺(脱力)をともないます。
神経伝達物質の役割
以下の神経伝達物質が片頭痛に関与しています:
- セロトニン:血管の収縮・拡張を調節
- CGRP:血管拡張と痛みの伝達
- ドーパミン:吐き気や嘔吐に関与
- ノルアドレナリン:ストレス反応と関連
皮質拡延性抑制(CSD)と前兆の関係
前兆のある片頭痛では、「皮質拡延性抑制(CSD)」という現象が起こります。これは脳の皮質を波のように伝わる神経活動の抑制で、視覚前兆などの症状を引き起こすと考えられています。CSDは血管の変化も引き起こし、その後の頭痛につながります。
⑤ 片頭痛の誘発因子・リスク要因
片頭痛を引き起こす可能性がある要因は多岐にわたります。個人によって異なりますが、以下が代表的な誘発因子です。
食事関連
生活習慣
精神的要因
環境要因
ホルモン要因
その他
誘発因子の個人差について
片頭痛の誘発因子は人によって大きく異なります。自分の誘発因子を見つけるためには:
- 頭痛日記をつける:頭痛が起きた日時、症状、その前の食事や活動を記録:当院でも片頭痛にかぎらず頭痛すべてにおいて経過が長い場合は頭痛日記をつけてもらうようにしています。
- パターンを見つける:頭痛日記の3〜6ヶ月の記録から共通点を探す
- 一つずつ確認:疑わしい誘発因子を一つずつ避けて効果を確認
- 完全に避けない:生活の質を下げすぎない範囲で調整する。例えば、チョコレートが大好きな場合に、無理に口にいれることを制限すると余計にストレスがかかり、逆に片頭痛を起こしやすくします。
⑥ 片頭痛のセルフチェック
以下のチェックリストで、あなたの頭痛が片頭痛である可能性を確認できます。ただし、最終的な診断は必ず医師による診察を受けてください。
片頭痛診断チェックリスト
国際頭痛分類(ICHD-3)の診断基準に基づいています
A. 頭痛の回数と持続時間
B. 頭痛の特徴(以下のうち2つ以上)
C. 随伴症状(以下のうち1つ以上)
D. 除外診断
判定結果の目安
A、B(2つ以上)、C(1つ以上)、Dすべてに該当:片頭痛の可能性が高い
一部に該当:片頭痛の可能性があるが、他のタイプの頭痛の可能性も
ほとんど該当しない:片頭痛以外の頭痛の可能性が高い
頭痛日記のすすめ
セルフチェックと併せて、頭痛日記をつけることをお勧めします:
- 頭痛の日時・持続時間
- 痛みの程度(10段階評価)
- 痛みの場所・性質
- 随伴症状
- 前日の食事・睡眠・ストレス
- 薬の使用・効果
- 女性は月経周期
すぐに医療機関を受診すべき「危険な頭痛」
以下のような頭痛がある場合は、緊急に医療機関を受診してください:
- 突然始まった激しい頭痛
- 今まで経験したことのない頭痛
- 発熱・首のこわばりを伴う頭痛
- 意識障害を伴う頭痛
- 手足の麻痺・しびれを伴う頭痛
- けいれんを伴う頭痛
- 日に日に悪化する頭痛
- 50歳以降に初めて起こった頭痛
医療機関受診のタイミング
以下の場合は、頭痛専門医や脳神経外科・脳神経内科の受診をお勧めします:
- 月に4日以上頭痛がある
- 市販薬を月に10日以上使用している:薬剤使用過多による頭痛の可能性あり
- 頭痛のパターンが変わった
- 日常生活に大きな支障が出ている
- 適切な治療を受けたい
早期の適切な診断と治療により、生活の質を大きく改善できます。
まとめ
片頭痛は、日本で約1,000万人が患う身近でありながら、生活に大きな影響を与える疾患です。特に20〜40代の女性に多く、適切な理解と対処が重要です。
重要なポイント
- 拍動性の中等度〜重度の頭痛
- 吐き気、光・音過敏を伴う
- 前兆・予兆で早期対策が可能
- 誘発因子は個人差が大きい
- 遺伝的要因も関与
対策のポイント
- 頭痛日記で誘発因子を特定
- 規則正しい生活習慣
- ストレス管理
- 適切な睡眠時間の確保
- 専門医による診断・治療
片頭痛は「我慢する病気」ではありません。
適切な診断と治療により、生活の質を大幅に改善できます。