片頭痛のクリニックでの治療
医師が送る片頭痛でお悩みの皆さんへの治療提案
片頭痛は単なる頭痛ではありません。生活の質を大きく左右する病気であり、適切な治療を行うことで症状の改善が期待できます。このブログでは、クリニックで受けられる片頭痛治療について、市販薬から最新の治療法まで、分かりやすく解説します。
片頭痛とは?基本的な理解
片頭痛は、頭の片側(時には両側)に起こる強い拍動性の頭痛が特徴的な病気です。日本では約1000万人以上の方が片頭痛に悩まされているとされています。
片頭痛の主な症状には以下があります:
- 4時間から3日間程度続く拍動性の頭痛
- 吐き気や嘔吐
- 光や音に対する過敏性
- 日常動作により頭痛が悪化
①市販薬・消炎鎮痛剤による治療
市販薬の種類と特徴
片頭痛の軽度から中等度の症状に対して、市販薬が第一選択となることがあります。主な市販薬には以下があります:
薬剤名 | 成分 | 特徴 |
---|---|---|
アスピリン系(バファリン、バイエルアスピリン、ケロリン、エキセドリンなど) | アスピリン | 血管の炎症を抑制、血流改善効果 |
イブプロフェン系(イブ、リングルアイビー、ディパシオ、ナロンエース、ノーシン、バファリンなど) | イブプロフェン | 消炎・鎮痛効果が高い |
アセトアミノフェン系(ノーシン、タイレノール、バファリン、カロナールなど) | アセトアミノフェン | 胃腸への負担が少ない |
注意点
市販薬の使用は月に10日以内に留めることが重要です。頻回使用を3か月以上続けることにより「薬物乱用頭痛:薬剤使用過多による頭痛(MOH)」を引き起こす可能性があります。効果が不十分な場合は、早めに医師にご相談ください。
②トリプタン系薬剤
トリプタンとは
トリプタン系薬剤は、片頭痛の特効薬として広く使用されている処方薬です。セロトニン受容体に作用し、拡張した血管を収縮させることで頭痛を改善します。
トリプタンの種類
日本で使用可能な主なトリプタン系薬剤:
- スマトリプタン(イミグラン):最初に開発されたトリプタン、注射・点鼻・内服薬あり。持続時間は短い
- ゾルミトリプタン(ゾーミック):効果発現が早い、口腔内崩壊錠あり
- エレトリプタン(レルパックス):効果持続時間が長い、中枢性副作用は少ない
- リザトリプタン(マクサルト):吸収が早く強く効果的、口腔内崩壊錠あり
- ナラトリプタン(アマージ):副作用が少ない、持続時間が長いが、効果発現までも長い
トリプタンの使用ポイント
- 頭痛の初期段階で服用すると効果的:頭痛発現から遅くとも1時間以内に内服
- 月に10日以上の使用は避ける:市販薬ほどではないが、薬剤乱用頭痛(MOH)を起こす可能性があり、最近は増加傾向にある
- 脳血管疾患や心血管疾患のある方は使用不可:血管の狭窄のある方は脳梗塞や心筋梗塞の可能性が高くなるので禁忌。そのために当院では事前に頭部MRAで血管の狭窄がないかを確認している。
- 個人差があるため、医師と相談して最適な薬剤を選択:トリプタン
③ラスミジタン(新世代の急性期治療薬)
ラスミジタンの特徴
ラスミジタン(商品名:レイボー)は、2021年に日本で承認された比較的新しい片頭痛治療薬です。従来のトリプタンとは異なる作用機序を持ちます。
ラスミジタンの利点
- 血管収縮作用がない:心血管疾患がある方でも使用可能な場合がある
- セロトニン1F受容体選択的:より特異的な作用
- 中枢神経系への直接作用:片頭痛の根本的なメカニズムに働きかける
ラスミジタン使用時の注意
服用後8時間は自動車の運転や機械の操作を避けてください。めまいや眠気などの副作用が現れる可能性があります。
はじめて使用する場合は、寝る前に内服することをおすすめします。生理前後の片頭痛の場合は長い時間持続することが多いので、トリプタンに加えてラスミジタンを追加で飲むようにするといい場合があります。
④CGRP製剤(注射薬)による予防療法
CGRPとは
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、片頭痛の発症に深く関わる物質です。CGRP関連薬物療法(CGRP阻害薬)は、片頭痛の予防療法として画期的な治療法です。
現在使用可能な注射薬
- エレヌマブ(商品名:アイモビーグ):CGRP受容体拮抗薬、月1回皮下注射で、以下の2つとは異なる機序で効果発現。便秘の副作用に注意。
- ガルカネズマブ(商品名:エムガルティ):CGRP抗体、1か月ごとの皮下注射。初回のみ2本まとめて打ち、その後は月1回の皮下注射です。早期に効果発現するので、強い片頭痛が頻回にある場合に使用。
- フレマネズマブ(商品名:アジョビ):CGRP抗体、月1回または3ヶ月に1回投与。長めに効果を持続するので、慢性片頭痛などに使用。
CGRP製剤の効果
期待できる効果
- 月間頭痛日数の50%以上の削減:月20日程度の頭痛日数が10日程度に減少
- 生活の質(QOL)の改善
- 急性期治療薬の使用回数減少:処方されたトリプタンがすぐになくなってしまう心配が減り、余裕をもって内服できる
- 比較的副作用が少ない:
これらの注射薬は、従来の予防薬で効果が不十分な場合や、副作用で使用できない場合に特に有効です。自己注射が可能で、患者さんご自身で在宅投与ができるので、クリニックを受診する回数が最長で3か月に1度になります。。
⑤今後発売予定のCGRP製剤(経口薬)
経口CGRP製剤の開発状況
現在、CGRP受容体拮抗薬の経口薬が開発段階にあり、将来的には注射ではなく飲み薬としてCGRP阻害療法が受けられるようになる予定です。
開発中の主な経口CGRP製剤
- リムゲバント:急性期および予防治療薬として開発中
- ウブロゲパント:急性期治療薬として海外では2019年既に承認済み
- アトゲパント:予防療法として開発中
経口薬の利点
経口CGRP製剤が実用化されると、以下のような利点が期待されます:
- 注射に対する抵抗感がなくなる
- より手軽な治療が可能
- 急性期治療としても使用可能:薬剤使用過多による頭痛は減る
- 携帯性に優れる
今後の展望
経口CGRP製剤の登場により、片頭痛治療の選択肢がさらに広がり、患者さん一人ひとりの状況に応じたオーダーメイド治療が可能になると期待されています。
⑥頭痛体操による非薬物療法
頭痛体操とは
頭痛体操は、薬物治療と併用することで片頭痛の頻度や強度を軽減できる非薬物療法です。首や肩の筋肉の緊張を和らげ、血流を改善することで片頭痛の予防効果が期待できます。
基本的な頭痛体操
1. 首の横倒し運動
座った状態で背筋を伸ばし、頭をゆっくりと右に倒します。右手で頭を軽く押さえ、左側の首筋を10秒間伸ばします。左側も同様に行います。
2. 肩甲骨寄せ運動
両腕を体の横に下ろし、肩甲骨を背中の中央に寄せるように意識して5秒間キープ。これを10回繰り返します。
3. 首の前後運動
顎を軽く引いて首を前に倒し、10秒間キープ。次に、天井を見上げるように首を後ろに倒し、10秒間キープします。
4. 肩回し運動
両肩を前に10回、後ろに10回、ゆっくりと大きく回します。肩周りの血流改善に効果的です。
頭痛体操の実施ポイント
効果的に行うために
- 毎日継続して行う(1日3回程度)
- 痛みを感じない、もしくは心地よい痛みを軽く感じる範囲で実施
- ゆっくりとした動作を心がける
- 呼吸を止めずに自然に行う
- 頭痛発作中は避ける:片頭痛時は安静するようにしましょう
まとめ:個人に最適な治療法の選択
片頭痛の治療は、患者さん一人ひとりの症状の程度、頻度、生活スタイルに応じて選択することが重要です。軽度の症状であれば市販薬から始めることもありますが、症状が重い場合や頻回に起こる場合は、専門的な治療が必要になります。
治療選択の基準
- 急性期治療:市販薬 → トリプタン → ラスミジタン(副作用に注意)
- 予防療法:月4日以上の頭痛がある場合に検討
- CGRP製剤:従来の治療で効果不十分もしくは副作用がある場合
- 頭痛体操:すべての患者さんに推奨される併用療法
医師との相談の重要性
片頭痛は個人差が大きい疾患のため、自己判断での治療には限界があります。以下の場合は、必ず医師にご相談ください:
- 市販薬を月に10日以上使用している
- 頭痛の頻度や強度が増している
- 日常生活に支障をきたしている
- 従来と異なる頭痛が出現した
- 発熱や意識障害、手足の麻痺などともなう頭痛
最後に
片頭痛は「我慢する病気」ではありません。適切な診断と治療により、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。一人で悩まず、専門医と相談しながら最適な治療法を見つけていきましょう。
※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的助言に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医師にご相談ください。