講演会参加報告(2026年6月25日)

アリドネパッチ発売3周年記念講演会に参加して

アリドネパッチ発売3周年記念講演会20260627

6月25日の夜、両国のKFCホールで開催されたアリドネパッチ発売3周年記念講演会に、パネリストとして招いていただきました。座長は順天堂東京江東高齢者医療センター脳神経内科教授の西岡先生と同准教授の安藤先生。川崎市立川崎病院脳神経内科の北薗先生、はら内科・脳神経クリニック院長の原先生、菊川駅前ライフサポートクリニック院長の秋葉先生という豪華な顔ぶれのなかで、私は江東区の開業医という立場から「認知症患者の医療連携」についてお話しさせていただきました。今回は参加者としての視点も交えながら、その夜に学んだことをざっくばらんにご紹介したいと思います。


アリドネパッチとはどんな薬か

アリドネパッチは、アルツハイマー型認知症の治療薬として広く使われているドネペジルを、飲み薬ではなく**貼り薬(経皮吸収型製剤)**にした薬剤です。有効成分は錠剤のアリセプトと同じですが、胸・腹・背中・上腕などの皮膚に貼ることで1日かけてゆっくりと成分が吸収されます。

飲み薬が苦手な方、嚥下(飲み込み)に不安のある方、飲み忘れが多い方にとって大きなメリットがあります。また、血中濃度が急激に上がりにくいため、飲み薬で起こりやすかった吐き気などの消化器症状が出にくいという特徴もあります。一方で、貼り続けることによる皮膚のかぶれが課題となることがあり、今回の講演でもこの点が丁寧に取り上げられていました。


認知症は「遺伝子レベル」から始まっている

北薗先生のご講演で最も印象に残ったのは、認知症のステージ分類についてのお話でした。私たちが日常診療で「軽度認知障害」「中等度」などと使っている分類は、実は臨床症状だけを見たものです。一方、最新の国際基準では、症状がまったくない段階——遺伝子レベル(Stage 0)やバイオマーカーが陽性になった段階(Stage 1)——からすでに「アルツハイマー病のプロセスが始まっている」と位置づけられています。

さらに、アミロイドやタウといった脳内の異常タンパクだけでなく、血管病変(V)やレビー小体(S)、神経炎症(I)なども組み合わせて評価する「AT1T2NIVS分類」という精密な生物学的枠組みが2024年に整備されました。混合病理を抱えた患者さんが多い実臨床では、こうした多角的な視点がますます重要になっています。開業医の立場でここまで網羅するのは現実的ではありませんが、「なぜこの患者さんの症状はこう出ているのか」を考えるときの頭の中の地図が、少し広がった気がしました。


アリドネパッチは「軽度」の方ほど効く

アリドネパッチについてとくに興味深かったのは、MMSEで比較的スコアが高い——つまり軽度の方ほど効果が出やすいというデータでした。記銘力(新しいことを覚える力)の改善には限界がある一方で、前頭葉機能の活性化を通じて、「何もやる気が出ない」という無力感の改善や、食欲増進に効果があるとのこと。認知症の方の「元気のなさ」に困っているご家族は多く、これは処方の動機として非常に納得感のある説明でした。


皮膚トラブルとどう向き合うか

貼り薬である以上、避けられないのが皮膚の問題です。かぶれや発赤が起きたとき、どこに貼り替えるか——胸部・腹部・背部・上腕のローテーションを丁寧に管理することの大切さをあらためて確認しました。また、予防的な保湿ケアや、症状に応じたステロイド軟膏の使用についても具体的なお話があり、「とりあえず中止」ではなく「工夫して続ける」という姿勢が大切だと感じました。当院でも、次回の受診時に貼付部位を確認しながら指導を丁寧にしていこうと思います。


グリンパティックシステムと神経変性疾患の意外なつながり

秋葉先生のお話で、「グリンパティックシステム」という言葉をご存知でしょうか。少し専門的に聞こえますが、仕組みはとてもシンプルです。

私たちの体には、老廃物を流し去るリンパ管というシステムが全身に張り巡らされています。ところが脳だけは、通常のリンパ管がありません。では脳の老廃物はどうやって排出されているのか——その役割を担っているのが、グリンパティックシステムです。脳の中には髄液(脳脊髄液)が流れており、これが脳内をくまなく循環しながら、アミロイドβなどの有害な老廃物を洗い流して体外へと運び出しています。いわば**「脳専用の下水道」**のようなものです。

秋葉先生のお話で驚いたのは、このシステムの機能不全が、一つの病気だけでなく、正常圧水頭症・パーキンソン病・レビー小体型認知症・アルツハイマー型認知症・進行性核上性麻痺といった複数の神経変性疾患に横断的に関わっている可能性があるという点でした。

これらの疾患は、症状も原因も一見バラバラに見えます。しかし「脳の老廃物がうまく排出されない」という根本的な共通点で捉え直すと、まったく別の病気だと思っていたものが、実は同じ川の上流と下流にある問題なのかもしれない——そういう視点です。もしこの仮説が今後さらに裏付けられれば、グリンパティックシステムを標的にした治療法が、これら複数の疾患に対して横断的に有効な手段となる可能性があります。神経変性疾患の治療の地図が、根本から塗り替わるかもしれないという、スケールの大きな話でした。


おわりに

西岡先生・安藤先生の絶妙な進行のもと、川崎病院での認知症への取り組みの厚さに刺激を受けつつ、原先生の開業医ならではのノウハウにも共感を覚えた夜でした。認知症診療は、診断・治療・介護・地域連携が複雑に絡み合う領域です。江東区でも、少しでも患者さんとそのご家族の力になれるよう、引き続き学びを重ねていきたいと思います。

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